くだくだしい人

 

 

 

特急「しなの」の右側の席に乗り込む。

前に座っているのは異国の夫婦。少し浅黒い健康的な肌をしたお姉さんと、はなぺちゃのお兄さん。電車の通路を挟んだ左隣に座るのは初老のおばちゃん。

その前にはフワフワのファーに身を包んだお姉さんが足を組んで座ってる。

日差しは通路の向こう側に差し込んでいて、ファーのお姉さんの細く白い綺麗な手の赤いネイルが陽の光を透かしてキラキラ光っていた。綺麗だなあと思って見ていると、お姉さんはポーチからふわふわした白いパフを手にとって化粧をし始めた。(今思えば、電車の中で化粧するってのは非常識だなと思うけれど、その時はどうしてあんなに綺麗に手が動かせるんだろうとだけ思った。それくらい綺麗な手だった。)

ふと自分の指を見ると、まるまるしたお饅頭みたいな手。彼女の手は「手に取る」「触れる」そんな動きしかできなさそうな指だったけど、私の手には「手に取る」って表現は似合わない。白いパフを「掴む」のがたぶん精一杯。

ついでに自分の爪に赤いネイルがついている想像してみたけれど、笑ってしまうくらいぜんぜん似合わなかった。こんな小さな丸い爪に赤いネイルをしたところで、小学生が夏祭りの5等で取ったネイルをこっそり付けたような、ちゃっちい感じになるんだろう。それはなりたい指先と大分違うのだ。

 


いいなあ、ファーが似合うような、赤いネイルが似合うような、そんな綺麗な女性になってみたいなあ。あれ、おかしいな。そもそも私の想像してた20歳のお姉さんはパーカージーパンでノーメイクではなかったぞ。おいこらどうした現実。

 


「君の良いところは垢抜けてないところだよね」って言われたことがあるけれどそれってなんだか悲しい。若い頃をこのまま田舎から出てきた女の子で終えてしまったら、陽に焼けてシミを作って、煮物と割烹着が似合うおばあちゃんになっちゃうんだろうな。それはそれで幸せそうだけれど、そんな甘やかな人生では手に入らないものに少し憧れてしまう。

 


一回くらい尖ってみたかったような。白い白粉で顔を隠して、クラクラするような香水の匂いをさせて、赤い口紅に煙草を吸わせて、フワフワしたファーを持ち歩くような。そんな女性になってみたいような気がする。

まだ間に合うのかな?それとも彼女らとは生まれた星が違うのかな。

そんなことを考えてる。

多分私は変わらない。

 

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これを書いてる途中に、イヤホンから流れる曲を大橋トリオから吉澤嘉代子に変えた。

 

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おばすてらへん。

 

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家に帰ってくると電気が止まってた。

おーのー、ほわっつ!?ってなったけど、慌てず騒がず支払いに行く。

せっかく今夜食べようとスンドゥブの素を買ってきたのに、あいえんちはアイエイチなので電気がなくちゃ湯が沸かせないなあと思いつつローソンの中。

まだ時間が5:30なのが救いだった。たぶんまだ今日中に電力再開できる時間だ。

友達に送った「たすけて」の文字を送信取消して、電力会社に電話をかける。なぜか音が出なくて焦る。スピーカーにしたら「東北電力です」という女の人の声がやっと聞こえた。でもローソンの外で電力再開の電話を公開してるのはずかしいなあと思いつつ、電話を続ける。どうやら今日中に再開出来そうな感じだった。途中でイヤホンがあったのに気付いてイヤホンで電話した。

あと30分以内には電力供給できるらしい。もしもの時の為に、ローソンに携帯の充電器を持ってきたけれど、無駄だったなあと思う。

暗い部屋でこれを書いていたら、ピピピと言って電力が再開された。もう大丈夫。

2度目の停電。まだ大人への道は長い。

 

 

うつくしい人 (幻冬舎文庫)

うつくしい人 (幻冬舎文庫)

 

 

西加奈子さんの本は元気になるから大好き。