春色の空気をのみこんで、目の奥が痒くなった。季節は春。花粉症の裏に隠れて、桜の花に媒介される病が町中をおかしている。マスクをしても防げないこの病は、男女間での感染力が強く、自覚症状も薄い。
平安の頃は「恋の病でデッドオアアライブ」これは命にかかわる病気だった。しかし元号も変わろうかという2019年4月。病による致死率は下がったものの、人々の間で、危険意識が著しく低下している。これにはさすがに警鐘を鳴らさざるを得ない。
道を歩けば手を組むカップル、耳をすませば猫の叫ぶ声。おそらく全国的にもパンデミックが起きてるはずなのに、誰も気づいていないのだ。
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押しチャリのハンドルを片方持ってくれるような男の子に花見のデートに誘われた。正直まんざらでもなかった。
私もいつのまにか感染予備軍になっていたらしい。
車を運転する彼を見て動悸を覚えた事はある。好きなドラマが一緒だ、なんていう運命のオマケすらあった。しかしてこれは恋なのか。気のせいか。モテ期なのか、発情期なのか。それとも、ただ、桜で錯乱しているだけなのか。
さっぱり分からないものだから、一応「ゴメンナサイ」のラインを打ちつつ、一人家で大量の肉を焼いた。肉とニンニクの臭いには、恋の病を予防する効果があるという。
いつのまにかうっかり浮かされていそうで、それが怖いのだ。
私はまだ足をここにつけていたい。