本棚の匂い

 

実家の書斎には、身の丈も幅もゆうに超える大きなどっしりとした本棚が3つある。

 

 

 

実家に帰ると、よくこの本棚をぼーっと眺めている。

 

小さな頃からもう幾度となく見上げてきた本棚だけど、不思議と見るたびに新しい発見があるのだ。

昔は気にも留めなかった美術の本、難しいと思っていた文豪の小説、気にもかけなかった車の本、興味も無かった仏教の本、そんなものが年を重ねるごとに読めるようになってきて、こっそり本棚から抜き出して開いてみるまでになった。

今日はジャコメッティの図録と、尋ね人の時間(新井満)。そこからは父の人生が垣間見える。

 

またよくよく見てみると、本棚の上段の端に隠すようにマドンナの写真集があったり、古い子育ての本が何冊も挟まっていたり、美術の本の中に春画の本が隠してあったりする。そんなものにクスリと笑えるようになった事がなんだか嬉しい。

 

 

しかし不思議なもので、特に何も考えず眺めている時にふと、たわいのない家族の記憶を思い出したりする。それは、スイミングスクールの帰りに兄と自販機でギザ十が出るまで両替しまくった事だったり、姉が眉毛を剃りすぎた日の夕飯の事だったり、父の靴下の中にカメムシが入っていた朝の事だったり、受験期なのにすぐに机で眠ってしまう兄に母が怒鳴っていた事だったり。そんな他愛のない日常。

忘れていたそんな事をふと思い出すのは、本棚の中に家族の記憶がひっそりと隠されているからなんだろうな。

傍目にはもう、新しく本を入れる隙間もないように見える本棚だけど、これからも我が家の歴史をそっとその中に隠していってくれたら嬉しい。

 

なんて、そんな事を思いながら本棚前に座り込んで年末の大掃除をサボっていたら母の怒声が飛んだ。

 

ではでは

 

 

 

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