高崎駅に降り立つと何処からか夏の香りがした。

今は実家に向かっている。

 

最近は日が落ちるのが遅くなった。

青と緋が混じった田圃では蛙が合唱していて、空気は怒気を含んで膨張している。そんな景色の中にいると、皮膚の下で血管が動き出しているような、むず痒い気分になる。初夏が一番発狂しそうだ。

 

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そもそも夏には思い出が多すぎる。ボートの漕ぎ手の様な生き方をしているわたしにはちと厳しい。

 

電車の窓は昔を断片的に浮かばせてはまた次のコマに移ってゆく。

夏祭りに奢ってもらったスイカサイダーの変な味とか(一口飲む?っていう口実を作りやすい飲み物)、木造の古臭い駅舎でこっそりキスをした夕方とか、部活帰り辛くて泣いたのを唯一知ってるベンチとか。そんなものを映しては感傷に浸って、初夏の湿気に記憶を溶かす。

この田舎が好きだったなあ、と思う。

 

今じゃもうたまらないけれど。

 

 

思い出を振り切ってどこかに誰かと出れたらカッコいい。新天地でホームを作るのだ。

今の私にここはアウェーで、ホームは何処にもなくて、根無し草の草野球チームだ。そんならそろそろ感傷からサヨナラして仕舞うべきなんだろうなと思う。

 

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